大判例

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仙台高等裁判所 昭和49年(け)8号 決定

本籍

盛岡市下厨川字四十四田一番地の一〇七

住居

同市厨川一丁目一三番の四

総合食料品販売業

申立人

松岡一之亟

大正六年一〇月二三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和四九年一〇月一四日仙台高等裁判所がした控訴棄却決定に対し、申立人から異議の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件異議の申立を棄却する。

理由

本件異議申立の理由は、申立人名義の異議申立書記載のとおりであるから、これをここに引用する。

所論は要するに、本件において弁護人の選定を経ないで控訴棄却の決定をしているのは違法であるというにあるので、審按するに、記録を調査すると、本件は、その法定刑が一年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金と定められた事件であつて、刑事訴訟法二八九条一項に定める必要的弁護事件に該らず、且つ申立人は頭書の被告事件について昭和四九年八月二一日盛岡地方裁判所において、罰金二万円に処する旨の判決の言渡を受け、同年同月三〇日控訴の申立をなし、同日付で同裁判所書記官から弁護人選任に関する照会を受けたのに対して、申立人自身が弁護人を選任する旨の回答をなし、右回答書は同年九月二日仙台高等裁判所に到達していること、一方仙台高等裁判所では同年九月一一日控訴趣意書の差出最終日を同年一〇月一一日とする旨指定し、右書面は同年九月一二日申立人に送達されたが、申立人は右最終指定期日までに控訴趣意書を提出しなかつたので同裁判所は同年一〇月一四日控訴棄却の決定をしたことが認められる。以上の経過に徴すると、申立人が本件について、争点が多く、憲法にかかわる重要な内容を含むものと考え、弁護人を選任して控訴審に臨むことを期待していたとしても、申立人が弁護人を選任するに足る期間は十分に存していたといわねばならず、その間申立人としてかゝる措置に出でず、しかも自ら右期間内に控訴趣意書を作成することもなさず、結局控訴趣意書を提出しなかつたのは、申立人の責に帰すべき事由によるものと認められるから、本件異議の申立は理由がない。

よつて刑事訴訟法四二八条三項、四二六条一項により本件異議の申立を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 太中茂 裁判官 清水次郎 裁判官 渡辺公雄)

松岡一之亟の異議申立(昭和四九年一〇月一六日付)

理由

本件は五年有余の長期にわたり裁判がおこなわれてきましたが、争点は多岐にわたり特に憲法にかゝわる重要な内容を含むものであります。

このような事件は、弁護人の選定なしで公正な裁判を期待することは困難であります。しかるに決定は弁護人の選定を経ないで控訴を棄却しているのは違法であります。

したがつて、この棄却決定に異議を申立てるものです。

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